本来であればこの本は、自然科学へ分類すべきである。それをわざわざSFの目録に掲載するのには理由がある。
天文学の内容としては出版された大正13年という年代を考えればそれほど変わった内容でもないし間違いがあるわけでもない。ただ著者の話の脱線具合がナカナカ妙である。たとえば火星人の項、 とりあえず火星人が居るか居ないか解らないと断ってはいるのだが・・・
火星人の作った自動車は、極めて格好の良い小型のもので、かつ人を轢いたり、田圃の中へのめりこむような下手な運転手は決して付いていない・・・中略
・・・火星人はすべて教養があって、その行為を慎しむから酒を飲みすぎてビール瓶を振り廻したり、女の尻を付け歩くような、さうして動物的の所業は一つもせず、ただ上品に山の麓から中腹へと、むらがり咲く桜花を打ち眺めて・・・
”講釈師見てきたような嘘を言い”という具合。しかも著者は妙に火星人に肩入れしてるし。
さらに金星に至っては、金星旅行の心得から始まって・・・
・・・向こうに小島があると思って、それへ泳ぎ着くと、それは大亀が浮いて居るので、何しろ甲羅の長さが幾十間もあるので島と間違えるのも無理はないが、金星の河にすむ亀はみな性質がよくないので、もし小さな地球人が泳ぎ寄ろうものなら、たちまちがぶりと頭から食いついて・・・
しまいには、金星人の新聞記者が金星人の天文学者に地球観測の取材して、地球に生物が居るかどうかの記事を書くという話にまで発展する。
これがSFでなくて何をSFと言おうか。
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