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『樹のごときもの歩く』

坂口安吾・高木彬光

昭和33年 重版 東京創元社
値段:3,200円


 

 

 この奇妙なタイトルの作品は、坂口安吾と高木彬光の合作によるものである。当初から意図された合作ではなく、坂口安吾が未完で終わらせたものを高木彬光が引き継いだものである。

 当初この作品は『復員殺人事件』というタイトルで昭和24年から文芸春秋社の雑誌「座談」に連載された。しかしストーリーも山場を迎える8回目に雑誌の廃刊により中断してしまい、昭和30年に安吾が没するまで再開されること無く未完となってしまう。
 昭和32年、江戸川乱歩が雑誌「宝石」の編集経営に乗り出した際、この未完に終わった『復員殺人事件』の連載が企画され、後継者として高木彬光が選ばれた。そしてタイトルも”復員”というすでに古びてしまったキーワードをはずし、作中のキーワードであるマルコ伝8章の”人を見る、それは樹のごとき歩くを見ゆ”から引用され改題された。
 坂口安吾の不屈の名作『不連続殺人事件』の次作として期待が高かった本作品を引き継いだ高木彬光の苦労は並大抵ではなかったと思われる。出来上がった作品の完成度はそれなりのレベルに達してはいたが、総じて辛口のミステリーファンからは安吾の築いた複雑な構成と壮大な複線を活かしきれていないとの厳しい評価が下されている。

 雑誌連載後の昭和33年、東京創元社からこの単行本が出版された。坂口安吾・高木彬光連名、序文に江戸川乱歩、カバー絵は藤城清治と豪華な顔ぶれではある。ちなみに奥付の印紙には坂口安吾の印だけが押されている。

 

東京都公安委員会許可第301020205392号 書籍商 代表者:藤下真潮