腐海のほとりに佇んで りぼんの裔 第3回 岡本真澄の件
「りぼんの裔(すえ)」というサブタイトルも今回で3回目。そういえばサブタイトルの説明してなかったなぁ。今更説明するのもなんですが、説明しないのも何なので、取り敢えず説明。”裔”という漢字は、長いものの端っこという意味があります。ようはりぼんの端っこだということです。だから何だというわけではないのですが、まあそんな訳なんですよ、お代官様。
というわけで、今回は岡本真澄です。知名度に関しては前回の二人より更に低いかと…。作品数もわずか8作品で、単行本に関しては間違いなく1冊も出ていない。
マイナーなマンガ家を紹介することに、あらぬ闘志を燃やしたがる店主ではあるけれど、今回は流石に不燃ゴミ(いや岡本真澄がというわけではなくて、店主の闘志のほうがです)なんじゃないかなぁと不安を感じていたりする、ちょっと弱気な店主であった。
まあ気を取り直して岡本真澄のプロフィールでも。
岡本真澄、1957年12月17日、愛知県生まれ。血液型はB型。他に判明しているプロフィールは妹がいることと猫を飼っていることくらいで、後はほとんど不明。
りぼん1978年7月号の第105回りぼん漫画スクールにおいて「ナオコちゃん」で準りぼん賞を受賞。
その時の評価点数は10点満点で絵:7点、ストーリー:7点、センス:8点、総合22点。
選者の評は、
絵:フリーハンドで描くバックや構図やコマ割りがうまい。作者のセンスのさえがうかがえる。何よりいいのは、絵柄に既成の少女マンガにない新しさが感じられることである。
話:絵柄と内容がマッチしていて楽しい話になっている。心理描写もたくみで、脇役にいたるまで人物が生きている。ちょっとしたギャグも効いていて面白く読める。
とけっこうな高評価。
デビュー以後の作品もギャグとシリアスの組み合わせもたくみで、絵もオリジナリティがあるし、背景の描き込みは少ないが、スクリーントーンは多用せず手描きの点描やカケアミが中心で作画の質も高い。ストーリーと雰囲気の良い絵の相乗効果で作品のレベルはかなり高水準だった。でも作品は増刊での掲載ばかりで、りぼん本誌での掲載は一度もなく、わずか8作品で消えてしまった。店主はとても悲しい…。
どうせ8作品しかないからリストついでに簡単な粗筋も書いてみよう。
・「ダイヤモンドヘッド・パパ」りぼん大増刊1978年10月号
由美子のパパは石頭を超えたダイヤモンド級のコチコチ頭。将来を誓いあった有川くんのことも”あんなデブとの結婚は許さん!”とケンモホロロ。無理やり見合いをさせられるが…。ストーリーはギャグ4:シリアス6の比率。
・「薫で〜す」りぼん大増刊1979年お正月号
某三流大学美術クラブのヌードモデル募集の広告に応募してきたのは、なんと若干12歳の薫ちゃんでした。美術クラブの女子学生に男の子と間違われて告られた薫ちゃんは、性転換しようと一大決心するが。ストーリーはギャグ7:シリアス3の比率。
・「さっちゃんこっち向い・テ」りぼん大増刊1979年5月号
両親を事故で亡くして、茂くんの家に引き取られてきた幸子ちゃん。茂くんは優しく接してあげようと努力するが、それなのにそれなのに幸子ちゃんはなぜかツンツンでツレナイ。ストーリーはギャグ5:シリアス5・「初恋」りぼん大増刊1979年11月号
”いまだかつてこのようなひたむきな恋があっただろうか? 大長編76コマ!!”。個性的で痴性と狂養あふれるヨシコちゃんが、サッカー部で万年玉ひろいのゴボウみたいなジローくんに恋をした。親友の花子ちゃんは二人の橋渡しをするが…。ストーリーはギャグ10:シリアス0の比率。
・「猫背」りぼん大増刊1980年5月号
ちょっと知恵遅れでクラスのみんなから特別視されている信恵。そんな信恵に対しごく普通に接する秀才の葉子。しかしマラソン大会の日、スポーツが苦手の葉子は信恵の優しさを裏切る行為をしてしまう。自分の行為を後悔した葉子は、次の日に信恵に謝ろうと思った矢先…。ストーリーはギャグ0:シリアス10の比率。
・「16(シックスティーン)」りぼん大増刊1980年11月号
もうすぐ17歳の聡子は男性恐怖症。けれど男嫌いでクラスから浮いている聡子をタイヘイくんは何かと気にかけてくれます。でもタイヘイくんが怖い。別にタイヘイくんが嫌いなわけじゃない。でもやっぱり怖い。少女のめざめを描く珠玉作。ストーリーはギャグ1:シリアス9の比率。
・「入江の恋人」りぼんオリジナル1981年夏の号
幼なじみのニコルとポールはいつも喧嘩ばかり。ある日ニコルは、入江の海岸でリゾートホテルの宿泊客ジャン・ピエールと出会う。大人の恋に憧れるニコルだが、ジャン・ピエールのもとにかつての恋人が訪れてくる。ストーリーはギャグ1:シリアス9の比率。
・「オルゴール」りぼんオリジナル1982年初夏の号
舞台は1921年のパリ。兄クロードはオルゴール職人。妹マリーは将来有望なバレリーナ。クロードの腕の良さも認められ、マリーもパリ・オペラ座の入団が決まりそうになる。そんな二人の兄弟の幸福の絶頂期…。ある日妹マリーが喀血する。美しい兄弟愛と悲劇を描いた珠玉作。ストーリーはギャグ0:シリアス10の比率。
デビュー作の「ダイヤモンドヘッド・パパ」から3作目の「さっちゃんこっち向い・テ」までは、ギャグとシリアスを織り混ぜた作品。ところが4作目の「初恋」は100%ギャグ作品。次の5作目からはうってかわってシリアス路線となる。ココらへんのウロウロとした路線変更が、作者の嗜好の変遷なのか、編集側の意向なのかはよくわからない。岡本真澄の良さは、ギャグとシリアスのバランスの良さにあったはずなんだがなぁ。だからといって、シリアス路線のデキが悪いわけではない。「猫背」と「16(シックスティーン)」の出来はもひとつ甘かったけれど、「入江の恋人」の読後感は悪くなかったし、「オルゴール」は涙腺緩みそうになったしで、出来に関して言えば文句なしの合格点。結局良くわからないのが、なんでこれだけ描ける人が描くのをやめちゃうのかということ。
実はこの時期(1970年代後半)にりぼんでデビューしたマンガ家さんって、りぼん本誌で活躍しているケースが結構少ない。前回の前田由美子は青年誌に移ったし、ごとう和や青木庸は朝日ソノラマの『デュオ』に移ったし、
水星茗も笈川かおるも『ぶ〜け』に移籍。あの内田善美ですら、りぼん本誌にはわずか4作品しか掲載がなく、人気がでるのも『ぶ〜け』に移ってからであったしねぇ。
1970年代後半から80年代初頭のりぼんは、デビューさせたマンガ家と本誌で掲載するマンガ家にかなりの齟齬があったような気もする。でも『ぶ〜け』辺りがトウが立ったりぼにすと(失礼な文だww ところで今はりぼん読者をりぼんっ子と呼びますが、70年台は、りぼにすとと呼んでいました)の受け皿になったと考えればそれほどおかしい話ではないか。『マーガレット』を『りぼん』で束ねて『ぶ〜け』だったから、『ぶ〜け』は『りぼん』のお姉さん誌と言えますね。
岡本真澄も『ぶ〜け』あたりに移籍していれば、それなりの道も開けたのではないかなぁと、つい余計なことを考えてみたくなるのだ。
今回の岡本真澄の件、愚図で間抜けでとんまな店主がものすごい見落としをしていて、実は岡本真澄は他誌で別名義でものすごい大活躍なんかしてたりなんかすると、店主はすごく嬉しいんですけどねぇ。
ところでこうして「りぼんの裔」を3回書いたわけですが、青木庸とか室谷明子とか新里敦子とかとか、書きたい人は一杯いるのですが、データ不足なんでデータが集まるまでしばらくお休みします。次回からはまた別なネタに走ろうかと。
あぁ、しまった。大事なことを忘れていた! 今回脱線していないや(笑)。すいませんお客さん、次回は必ず脱線させますので、ひとつ何卒ご容赦を…(ペコリ)。
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