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少女マンガ(家)以外にも花束を…    藤下真潮
ちょ〜番外編:青空みどりという悪夢

 

 初出:「漫画の手帖 TOKUMARU No.05」 2011年3月15日発行

 

1992年松文館発行。

カバーは当時の編集長に懇願されて無理やり美少女風(?)に描いたらしい。

でもまあ中身はこんな感じである(;´Д`)。

 

こちらは1988年松文館から発行された青空みどりの処女単行本。
タイトルが時代を語ってます。

その後始めたアダルト系美少女ソフトの原画。
ちゃんと美少女描けるじゃん(笑)

 

 

 

 かつて青空みどりというマンガ家がいた。過去形で書いているからと云って別に死んだわけでも失踪したわけでもない。今でもしっかり漫画界に棲息している。それについては後述する。

 初めて青空みどりに遭遇したのは、15年ほど昔の事だったと思う。とある古本屋で見付けたこの単行本。『人魚の女の子』である。発行元は当時美少女系コミック雑誌を出版していた松文館。買った値段はたしか税込105円だったと思う。

 表紙の絵柄は、まあこの当時の美少女物としては、あまり上手い方ではないがぎりぎりセーフという感じであった。ところが中身はこんな感じ。限りなく詐欺に近い(笑)。表紙の絵柄と中身でギャップがあるということは、この業界ではそんなに珍しいことではないが、ここまでのギャップはちょっと珍しい。目眩がしそうである。しかも更に恐ろしいことが起こった。こともあろうにこの作品を気に入ってしまったのである。

 表題作の「人魚の女の子」は単行本書き下ろしの70ページ弱の中編で、とある田舎の小学校に転校してきた少女と少女の出合いの物語である。出合い、反発、融和、別れ(死)というありがちなストーリー展開で、典型的なボーイ・ミーツ・ガールを女の子同士に置き換えたような話である。

 表題作以外は、これも書き下ろしの「のり子」という女子高生と小学生の男の子によるちょっと重たいテーマの短編作品、更に松文館の雑誌『ハーフリータ』に掲載された8ページのショートコミックが5編である。ショートコミックの方は、実に何というか不思議なテーストの作品群で、全体通してみると実に得体の知れない単行本となっていた。

 でまあ、それでどうしたのかというと別にどうということもなく、購入した単行本はそのまま腐海の底に沈んでいったのである。

 それから6,7年後。脱サラして古本屋を始めるにあたって、腐海の整理を始めたところ、この『人魚の女の子』が再び出てきた。買った当初と違って、丁度インターネットも普及していた頃なので”青空みどり”を検索してみた。するとなんてこったい当の本人のページが出てくるではないか。早速コンタクトを試みた…

 ここでちょっと青空みどりのプロフィールを紹介したい。
青空みどり、本名は秘密。1961年2月19日愛媛県生まれ。京都市立芸術大学大学院油彩専攻科卒業。某下着会社のデザイン部に就職するも、朝が起きられないという情けない理由により1年半あまりで退社。ちり紙交換をやりながら松文館『ハーフリータ』に投稿する。1988年「人魚の湖」でデビュー。その後、高校の美術教師に転職し、教職の傍らエロマンガ描きを続ける。

 青空みどり名義での活動期間は約4年、書かれた作品は全部で16作品。単行本書き下ろしの3作品を除いた13作品はすべて『ハーフリータ』に掲載された。以下に一応リストを掲げるが、作者本人に確認してもこれで本当に全部だったかどうか記憶が怪しいところがある(なんせ作者はB型だから)。

 初出はすべて「ハーフリータ」であることは間違いないが、一部初出の号数が不明なものがある。これに関しては私が作品の切抜きを作る時点で雑誌の号数をメモり忘れたまま雑誌を廃棄してしまったからで、当方のミスである(なんせ私もB型だから)。

 その後青空みどりがどうしたかというと、ハーフリータの廃刊と共に青空みどりの名を捨て、本名名義で作品を発表したり、企業向けの企画漫画(当時マニュアルやハウツーものを漫画化するのが企業で流行っていた)を手がけたり、鬼畜系のアダルトゲームソフトのシナリオ・原画作成などで暗躍していたらしい。

 直接生身の青空みどりと遭遇したのは2003年の冬コミである。その頃にはTHE SEIJIというペンネームで、もうすこしまともな(?)エロマンガを描いていた。それから色々な事があった。しかしそれから色々の事を書いていると、もの凄く長い話になるのでここでは割愛する。

 古本屋の均一棚で『人魚の女の子』を手にした時、まさかその十年後にコミケで『青空みどりの逆襲』という単行本未収録作を中心に収録した同人誌を出して、300部も刷ったのにわずか30部しか売れなくて頭抱えたり、ヤングチャンピオン誌で「WAVE」というマンガの連載の監修やる羽目になろうとは、思いもよらなかった。人の縁というものは本当に訳分かんないものである。

 ちなみに、この「WAVE」という漫画作品は”80〜90年代IT業界スチャラカ三人組”みたいな内容で、秋田書店『ヤングチャンピオン』誌上で2007年新年号から掲載され、途中『ヤングチャンピオン 烈』に移籍し、全35話が掲載された。この連載中のお互いの逸話に関しても、まあ枚挙にいとまがないが、やっぱり書きだすともの凄く長い話になるので残念ながら割愛せざるおえない。

 結局単行本は2巻までが刊行されたが、3巻目はついに刊行されなかった。発行部数が少なくて新刊本屋でもめったにお目にかかれないので、興味のある方はネットででも注文してみて欲しい。
同人誌『青空みどりの逆襲』に関しては、東京神田の某古本屋(笑)に死ぬほど在庫が余っているので、こちらも興味のある方は問い合わせしてみて欲しい。

 一応お互い棺桶に片足突っ込むまでには、残りの青空みどり名義作品を収録した『青空みどりの断末魔』という同人誌を出そうと、固く誓った約束もあるにはあるのだが…。これも一体どうなることやら(なんせお互いB型だからな)。

青空みどり名義作品リスト
「のりピーの春」 単行本書きおろし
「人魚の女の子」 単行本書きおろし
「のり子」 単行本書きおろし
「吾作の娘」 ハーフリータ1988年6月号
「50億年の仕事」 ハーフリータ1988年7月号
「紙ひこうき」 ハーフリータ1988年9月号
「首都の天使」 ハーフリータ1988年10月号
「大伽藍の穹窿の如き猿の眠」 ハーフリータ1988年11月号
「夏はかなし」 ハーフリータ1988年12月号
「丘の家」 ハーフリータ号数不明
「3区」 ハーフリータ号数不明
「蒲団」 ハーフリータ号数不明
「天才のりこちゃん」 ハーフリータ号数不明
「オネンネやっちゃん」 ハーフリータ号数不明
「田舎のバス停」 ハーフリータ号数不明
「人魚の湖」 デビュー作 ハーフリータ号数不明
単行本リスト
「のりピーの春」松文館 別冊エースファイブコミックス 1988年11月
「人魚の女の子」松文館 別冊エースファイブコミックス1992年1月


 

 あとがき

 THE SEIJIとの付き合いも早いものでもう10年も経ってしまった。40過ぎてからは、時間が経つのが坂道転がるように速く感じるなあ。

 今現在のTHE SEIJIの潜伏場所はここ(http://theseiji.sakura.ne.jp/)である。日記に関しては現在も更新中だが、単行本類は「WAVE」以降アダルトマンガを含めあまり発行されていない。マンガ家として休業中かといえばそうではなくて、単に表の名前で描けないマンガを描いているという事である。ようは裏のマンガ家稼業(どんなんだそれは(^^ゞ)に勤しんでいるわけである。

 彼には早いこと裏稼業から足を洗って、表の陽のあたる舞台に出てきて欲しいと切に願っている。

 ちなみに「WAVE」3巻と「青空みどりの断末魔」については、2012年11月現在電子書籍化を目指して画策中である。何とかなったらまたご報告します。

 

 

東京都公安委員会許可第301020205392号 書籍商 代表者:藤下真潮