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少女マンガ(家)に花束を    藤下真潮
第2回 〜聖なる夜に銀雪子〜

 

 初出:「漫画の手帖 60」 2010年12月10日発行

 

 

週刊少女フレンド増刊7月25日号
「ジョルの魔法使い」
デビュー作

 

週刊少女フレ ンド増刊12月25日号

 

 

 

 今回は銀雪子です。銀雪子と書いて”しろがねゆきこ”と読みます。1978年から1984年頃まで週刊少女フレンド本誌、増刊号、ハローフレンド、キャロル等、講談社のマンガ雑誌を中心に活躍されました。公的な情報ではないのですが、7,8年程前に存在したインターネット上のファンサイトには病没されたとの情報がありました。かつてのファンクラブの方が作ったサイトなのでおそらく事実だろうと判断しております。今回掲載した作品リストも元々はこのファンサイトに存在したリストで、作成自身は銀雪子自身による作成のようです。ですので作品リストとしては、ほぼ完璧だと思われます。一部初出の雑誌名や号数の記述が欠落していたため、その部分と同人誌、投稿情報等は当方で加筆しました。そんなわけで今回腐海(倉庫)はあまり活躍してないです。

 銀雪子。北海道出身で1959年3月12日生まれ(デビュー当時の年齢から逆算しているので、ひょっとしたら1年間違えているかも知れない。女性の歳を間違えるなんて許されないかも知れないけれど、でも間違えていたら許してね)。週刊少女フレンド増刊1978年7月25日号掲載『ジョルの魔法使い』でデビュー。プロフィール的にはこんな感じ。


 初めて読んだ銀雪子の作品は、週刊少女フレンド増刊号掲載の「キャベツ畑のやさしい夢」だった。デビュー間もない1978年の作品だから、当時私はまだ高校生(歳がばれるね)で『りぼん』や『花ゆめ』なんかはせっせと読んでいたけれど、講談社系の『フレンド』『なかよし』はほとんど読んだ覚えはない。だから当時何で週刊少女フレンドのしかも増刊号なんか読んだのかは、本来覚えていても良いはずなのだが、なぜかまったく読んだ経緯に関しては思い出せない(歳かな?)。それでも作品内容だけはちゃんとと覚えていて、描線の綺麗なやさしい絵柄でちょっと子ども向けのファンタジーという印象だった。話はこんな感じ…。野菜農家のクレイソンさんは、収穫の最後のひとつのキャベツを畑の妖精のため残してあげるという心優しい青年。やがて同じように妖精を信じる心優しい娘と結婚する。1年たったある日、重い荷物を持った奥さんは大切な赤ちゃんを流産してしまう。ものすごくがっかりしたクレイソンさん夫婦の前に畑にたった一つ残ったキャベツの中から妖精の赤ちゃんが出てきて……。思い切りストレートど真ん中のファンタジー作品です。砂糖菓子に練乳ぶっ掛けたくらい劇甘のファンタジーです。実はこっそり白状するとこういう劇甘ファンタジー作品大好きなんだな。普段は恥ずかしいから知らん振りしていますが。ただし気に入った割にはその後ちゃんとチェックして読んでいないところを見ると、やはり当時としてはそれほど思い入れは強くなかったようである。

 銀雪子の作品傾向としては、前述の作品や「妖精の谷シリーズ」のようなど真ん中ファンタジーの他に、デビュー作である「ジョルの魔法使い」や「花咲か幽霊」のようなキリスト教的道徳観にあふれた心温まるお話が多い。ちなみに「ジョルの魔法使い」は、聖書のカラシ種の説話(ほんの小さな種でもやがて鳥が巣を作れるくらいの木に成長する)をモチーフにした話。また「花咲か幽霊」の方は、こんな感じの話である。生前何一つ良い行いをしなかった男が、霊界への案内人に導かれようしたまさにその時、犬に吠え立てられ樹の上で泣いていた一人の少女を助けてしまう。その行為により霊界へ行くのが1年後となってしまった男は、自分の死体に毛布をかけて一輪の花を捧げてくれた少女のために残された1年で野原を花で埋め尽くそうと思いつく……。という感じです。
 絵柄は見ての通り、デビュー当時から非常に安定した上手い絵柄で描線も美しい。ファンタジーとしての質も高く、ストーリーも破綻がない。宗教的道徳観が背景にある作品であっても説教臭さがあるわけではなく、非常に味わい深い作品に仕上がっていた。でも…あまり受けなかった。

 厳密な当時の読者の人気に関してはうかがい知ることは難しいが、作品リストの初出を見る限り段々と週刊少女フレンド本誌での掲載が減り、増刊やハローフレンドでの掲載が増えている。それでも掲載ペースがあまり減らないことやカラー扉を含む作品が思いの外多いことを見ると、編集部での期待や評価は高かったようです。作品の質に対してあまり受けなかった理由はいくつか考えられが、一番大きな理由は時代の雰囲気に合わなかったということではないだろうか。

 銀雪子の末期の作品に「ロベールとポーリーヌ」というシリーズがある(厳密にはシリーズ名は冠されていない)。幼い兄妹の隣にエスペランザという魔法使いの女性が引っ越してくるという話で、連作短編形式のファンタジー作品で全部で6話ある。この作品が掲載されたのは1983年4月に講談社から創刊された『キャロル』という雑誌だった。ほとんど知名度のない雑誌なので知らない人も多いかと思う。どういう雑誌だったかと云えば小学校中学年から低学年の少女向けに発行したマンガ雑誌である。要するにちょっと高年齢対象になってしまった『なかよし』をフォローするための雑誌である。テレビとのタイアップもされていて連載作品の中には「クリーミ−マミ」や「とんがり帽子のメモル」などのコミカライズ作品もあった。ただしこの雑誌は1984年7月号(通巻16号)で廃刊という、大手出版社としては異例の早さで終了してしまう。この雑誌が商業的に上手くいかなかった原因もいくつか考えられる(たとえば『りぼん』『なかよし』に比べて付録が貧弱)が、一番大きな理由はやはり時代の雰囲気に合わなかったことが原因だろうと思われる。

 1980年代初頭。時代はやがてバブルに差し掛かろうというイケイケドンドンの上り坂の頃。講談社の良質な児童向けマンガを提供しようという試みとはすれ違いに、低年齢の子どもさえ教育的に正しいマンガなんか見向きもしなかっただろう。本来銀雪子にとってこの『キャロル」という雑誌が一番ふさわしい器だったような気がする。しかしまあその器が受け入れられない時代に中身の作品が評価されることは難しかったかも知れない。
 キャロルが廃刊となった1984年、「あなたに愛の花束を」がハローフレンドに全3回で掲載される。今までと少々絵柄を変えて、銀雪子が今まで一度も描いたことがなかった現代物であった。東京でOL勤めをしていた主人公が会社を辞めて北海道に戻ってくる。そこで出会った写真家の男性と恋に落ちやがて結婚するという、典型的なラブストーリー。銀雪子が北海道在住で、しかも写真家の旦那さんと結婚していたことを考えると、おそらく自分自身をモデルとして重ね合わせた部分があった作品に違いない。そして結局その作品が最後の作品となった。
 亡くなったことにより作品の発表が無くなったのか、それとも他の理由により断筆したのかは今となっては確かめようもない。6年間のマンガ家生活で44タイトルの作品、そして2冊の単行本。わずかなデータだけで他人の人生を推し測ることが如何に愚かなことかは承知してはいるが、それでも自分の想いを込めた44の作品を発表できた銀雪子のマンガ家人生はきっと豊かだったに違いない。 

銀雪子 作品リスト

投稿歴
ロイと子猫(投稿作) 花とゆめ,1975年15号 ホープ賞受賞

同人誌
・Bad friend1 1978年11月 漫画研究会BAD FRIEND
・ティーパーティVol3 1978年 個人誌(?)

商業誌
・1978年
ジョルの魔法使い(デビュー作)  週刊少女フレンド増刊7月25日号
  第15回少女フレンドなかよし新人まんが賞佳作入選作。
ルーカスの長い夜  別冊少女フレ ンド増刊10月号
キャベツ畑のやさしい夢 週刊少女フレ ンド増刊12月25日号

・1979年
風と海とガラスびん 週刊少女フレンド1号
キャサリンの息子 週刊少女フレンド5号
時の中の子どもたち 週刊少女フレンド増刊3月25日号
サンドロの火 週刊少女フレンド8号 ※my
セントオーク城の子ねこ 週刊少女 フレンド12号
エミリアと風景画 週刊少女フレ ンド増刊7月25日号
ネプチューン 週刊少女フレンド18号
求む!マイネーム 週刊少女フレンド20号
もみの木の聖夜 週刊少女フレンド24号 ※my

・1980年
ジュリオの青い宝石 週刊少女フレンド2号
遠い森遠い声 ハローフレンド4月号
オニオン・ラブ 週刊少女フレンド8号
リトルエスパー(ぼくジュンちゃんいちゅちゅの巻) ハローフ レンド6月号
リトルエスパー(黄金虫の夜の巻) ハローフレンド7月号
リトルエスパー(ラッキーライラックの巻)ハローフレンド8月号
my Robin(5回連載) 週刊少女フレンド17号〜21号 ※my

・1981年
フローヴェルの雪(妖精の谷-白き一族の章-)週刊少女フレンド,1981年2号
魔法使いの子守歌(妖精の谷-魔法族の章-)ハローフレンド,1981年4月号
グレイストンファームの風(前後編) 週刊少女フレンド,1981年10〜11号 ※リラ
9月の童話 ハローフレンド9月号
花咲か幽霊 ハローフレンド11月号
リラ夢の家 週刊少女フレンド増刊11月30日号 ※リラ

・1982年
マーシィとすみれのたまご(妖精の谷-すみれ一族の章-)
ハローフレンド1月号
春かげろうの神話 ハローフレンド4月号 ※リラ
妖鬼の笛(妖精の谷) 週刊少女フレンド9号
マリオ人形・愛の言葉 ハローフレンド6月号
神様をわすれた天使たち ハローフレンド9月号
光ふる大地-黄金の風のように- 週刊少女フレンド増刊10月30日

・1983年
光ふる大地<風の声> ハローフレンド2月号
光ふる大地<生命の章> ハローフレンド3月号
光ふる大地<夢の声> ハローフレンド4月号
不思議なおとなりさん キャロル4月号(創刊号)
虹の羽のミュノーナ(妖精の谷) ハローフレンド6月号
さとう菓子のお人形 キャロル7月号
屋根裏部屋のお友だち キャロル9月号
蒼き夜のヴァイオリン ハローフレンド10月号
虹色のガラス玉 キャロル11月号
白い森のよび声 ハローフレンド12月号

・1984年
月の光のルウナ キャロル1月号
魔法の家の午後 キャロル4月号
あなたに愛の花束を(3回連載) ハローフレンド5月号〜7月号

単行本
・my Robin  講談社KCフレンド 1980年11月発行
・リラ 夢の家  講談社KCフレンド 1982年4月発行


 

 あとがき

 これで漫画の手帖のコラムが3回目。開店当時から気になっていた、「銀雪子」が題材です。あまりフレンド系を読んでいない店主ですが、猛烈に「銀雪子」が気になりだしたのは、前出のファンサイトを見かけたからでもあります。ある日気がついたらファンサイトが消失していたので、元リストの作成者には、連絡の取りようが無くなっておりました。
 そんなわけでリスト作成に関しては、自前の腐海があまり役に立たない回でもありました。またファンサイトのリストも不完全だったので、米沢嘉博図書館でだいぶ調べ物しました。結構リスト作成でお金かかった(^^ゞ

 漫画の手帖のコラムに関しては、なるべく評論めいたことは書かないようにしているのですが、読み返すとやっぱり評論めいたことを書いているなぁ。反省反省。

 

 

東京都公安委員会許可第301020205392号 書籍商 代表者:藤下真潮